2011年01月29日
すし・・・「江戸前にぎり」

握られて出来て喰い付くすしの飯 (江戸川柳)
川柳は、「江戸前ずし」を詠んだもの、いまやすしといえば、全国津々浦々、江戸前の看板ばかりだが、
江戸前の握りずしが登場したのは、江戸もずっと下がった、
いわゆる化政期といわれたごく後期の頃である。それだから、水戸黄門や
大岡越前は、江戸前の握りずしを口にしていない、遠山の金さんは食べたかもしれない・・・
それ以前のすしは、大津の鮒ずしに代表されるように、米の乳酸発酵を利用した長期熟成の馴れずしか、
飯の上に鯖や鮎の切り身をのせて、重しをかけて発酵を早めた押しずしのことを指した。
どちらも、澱粉の糖分で魚のアミノ酸を分解し、酸敗による旨味を引き出す製法で、
相応に時間がかかる。気の短い江戸っ子は、炊き上げた飯に酢を混ぜ、そこに魚の切り身をのせ、
キュッと握った即席ずしを発明した(裏ワザに近いだろう)。すしのヌーベル・バーグである。
従来のすしと異なる製法、そして味わいであることから、区別のため、わざわざ江戸前と冠した。
江戸前とは、江戸湾岸でとれた近海ネタを使ったというばかりでなく、
腕前、男前に通じる、江戸スタイルをも意味し、江戸の流儀で作ったオリジナルレシピだ。
「すしになる間とくばる枕かな」と一茶が詠んだように、以前のすしでは、すしふるまいには、
客に一睡してもらわないとならなかった・・・
注文した目の前で作り、すぐその場で食べられる・・・江戸前ずし・・・
「握られて出来て喰い付く・・・」は、実にセンセーショナルだった。
(by杉浦日向子さん大江戸美味草紙より)