2011年02月14日
・・・てっぽう・・・

死なぬかと雪の夕べにさげて行き (江戸川柳)
雪の夕まぐれ、退屈な野郎が、冬眠野郎の穴ぐらを、どんどんたたいて、
巻き添えにする。その手にさげている、えものは、「ふぐ」である。
ふぐ・・・春の雪をそのままにうつして、ほんのり淡くすきとおる麗しの身よ・・・
古今を問わず、とっておき「天上の美味」だ・が、・・・・・
処理法を一歩あやまれば、そのまま「天上界」へ、ご招待となりかねない危険なしろもの・・・
縄文遺跡で、時折ふぐの骨がまとまって見付かるらしい。
ということは、縄文人も、ふぐをたべたのだ。ずいぶん死んだろう。
それでも、ふぐは、美味かった・・・
死ぬかもしれないと、分かっているけど止められない。だから、臆病もの呼ばわりをおそれた男達は、
勇気の誇示のためにも、自ら率先し、それを口にしたことだろう。
時、はるかにくだった江戸においても、じつのところまだ、ふぐのどこに毒があるのか、
はっきりみきわめていなかった。当たるも外れるも、結局、
神頼みの運不運。ふぐを指す「てっぽう」というあだ名は、
「ときどきあたる」をしゃれたもの(当時の鉄砲は火縄銃・・・)だ、ともあれ、スリル満点、
心どきどきのロシアン・ルーレットだ。これは、江戸っ子の男と生まれて逃げることの出来ない、
いわゆる大人になるための通過儀礼の、そうとう無鉄砲な食べるゲームであった・・・
(by杉浦日向子さん、大江戸美味草紙より)