すし・・・「江戸前にぎり」

かず

2011年01月29日 07:57



握られて出来て喰い付くすしの飯   (江戸川柳)

川柳は、「江戸前ずし」を詠んだもの、いまやすしといえば、全国津々浦々、江戸前の看板ばかりだが、

江戸前の握りずしが登場したのは、江戸もずっと下がった、

いわゆる化政期といわれたごく後期の頃である。それだから、水戸黄門や

大岡越前は、江戸前の握りずしを口にしていない、遠山の金さんは食べたかもしれない・・・

それ以前のすしは、大津の鮒ずしに代表されるように、米の乳酸発酵を利用した長期熟成の馴れずしか、

飯の上に鯖や鮎の切り身をのせて、重しをかけて発酵を早めた押しずしのことを指した。

どちらも、澱粉の糖分で魚のアミノ酸を分解し、酸敗による旨味を引き出す製法で、

相応に時間がかかる。気の短い江戸っ子は、炊き上げた飯に酢を混ぜ、そこに魚の切り身をのせ、

キュッと握った即席ずしを発明した(裏ワザに近いだろう)。すしのヌーベル・バーグである。

従来のすしと異なる製法、そして味わいであることから、区別のため、わざわざ江戸前と冠した。

江戸前とは、江戸湾岸でとれた近海ネタを使ったというばかりでなく、

腕前、男前に通じる、江戸スタイルをも意味し、江戸の流儀で作ったオリジナルレシピだ。

「すしになる間とくばる枕かな」と一茶が詠んだように、以前のすしでは、すしふるまいには、

客に一睡してもらわないとならなかった・・・

注文した目の前で作り、すぐその場で食べられる・・・江戸前ずし・・・

「握られて出来て喰い付く・・・」は、実にセンセーショナルだった。

(by杉浦日向子さん大江戸美味草紙より)

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