江戸自慢の第一が「江戸前」である。江戸前とくれば、イキでイナセで、
チャキチャキ、スッキリ。なにより都会的な様子のよさが身上だ。
もとより、京の「都好み」に対し、江戸でうまれた造語だ。
しっとり、はんなり、たっぷり、ゆったり・・・の、千年の王城の地から見れば、
江戸などはたかだか、昨日今日ぽっと出の新興都市にすぎない。
営々と積み重ねられた伝統文化の都に、新参ものが付け焼き刃でたちむかったところで、
しょせん敵ではない。そこで、怖いものしらずの勢いと、鮮度を売りにしたイキを、
前面に打ち出したのである。よくいえば発想の転換、ありていにいえば裏ワザ、反則スレスレ、
開き直りともとれる。イキは、粋と書くけれど、そのなかには、
勢い、意気地、そして、活きがこめられている。
「京の雅」に「江戸の粋」。かくて、元禄あたりまで、ずっと上方文化のコピーにあまんじていた江戸が、
イキというキーワードを得て、ひとりだちをした。ここに、東西の駆け引きがうまれ、
たがいに刺激しあうよきライバルとなる。
・・・・・・が、一方的にライバル視したのは江戸(東京)で、上方は、
いつだって悠然と自身にあふれていた。江戸文化とは、
四百年間の上方文化へのコンプレックスの結晶である。
江戸が都市として整備され、経済的にも安定してきた八代将軍吉宗のころから、
「江戸っ子」なるものがあらわれる。
江戸っ子は、「INY(アイ・ラブ・ニューヨーク)」
のノリであり、みずからの街を「花のお江戸」、すなわち
「IEDO」と言っているのだ。
江戸に住む江戸人が、はじめから江戸っ子だったわけではない。
積極的な都市民の自覚に目覚めて、ひとかどの江戸っ子となる。
(by杉浦日向子さん・・・)
江戸前の食材
タイ・カツオ・アジ・ウナギ・スズキ・ハマグリ・アサリ・シャコ・クルマエビ・シラウオ
サバ・ボラ・キス・サンマ・カレイ・ハゼ・アナゴ・ドジョウ・ノリなどなど・・・